センサによる製造の見える化と効率化
HARTINGが実現した製造工程のデジタル化によるエネルギー使用量の監視
HARTING Technology Group(ハーティング テクノロジー グループ)は、産業用コネクタの世界大手メーカーです。グループ全体で約6,200人の従業員が、世界各国の43の販売会社と14の生産拠点で働いています。ファミリー経営企業として持続可能性も重視しながら、常に高品質の製品を提供することを目指しています。同社は、できる限り生産を効率化して環境負荷を最小限に抑えるため、ドイツのエスペルカンプ市にある本社工場のデジタル化に取り組んでいます。
「当社の3か所の工場は、高度なデータの見える化により製造プロセスを客観的に把握しています」と、HARTING ElectronicsでIIoT Solutions & Servicesのリーダーを務めるThomas Kämper氏は言います。何百台もの装置から収集したデータをITレベルへ伝送し、Thomas Kämper氏のチームでそのデータを常時分析します。
様々な通信規格が用いられる工場のデジタル化
HARTING ElectronicsのIIoTプロセスデータエンジニアであるLuca Manuel Steinmann氏は、データ診断ソリューションを導入した時の課題を次のように説明します。「当社の組立工場では、システムにさまざまなインターフェースやプロトコルが使われており、重要プロセスデータや、サイクルタイム・ダウンタイムなどの大量の情報を通信しています。こうした情報をITレベルで分析できるようにするためには、制御側のOTデータを集約してデータインフラに統合する必要がありました。また、冷却水やコンプレッサのエア、電力使用量を監視するセンサも追加導入しました」
工場内のさまざまな通信規格をレトロフィットで統一するデジタル化を検討し、同社はIO-Linkの採用をすぐに決めました。製造現場のセンサから収集したデータを、装置に設置したIO-Linkマスタが集約してITレベルへ伝送します。これにより、制御レベル(OT)と情報レベル(IT)が融合し、情報の有効活用が実現します。
IO-Link:センサ1台から多くの情報を取得
「IO-Linkには明らかに多くのメリットがあります」と、Thomas Kämper氏は言います。「オープン通信規格で幅広く普及しているため、簡単にセンサを追加して、装置の状態をより明確に把握できます。Modbus/TCPやIoT Core等の通信規格にも対応し、データ収集を統一して直感的に処理できます」
これだけではなく、複数の重要プロセス値をセンサ1点で測定して、同時に伝送できます。例えば、ifmの圧縮空気流量センサSDを、HARTINGはコンプレッサのエア使用量の監視に導入しています。このセンサは、現在の流量値以外にも、圧縮空気の監視に必要な圧力・温度・積算流量等の重要データをIO-Link通信で伝送します。一例を挙げると、装置が正常に稼働するためには、0.6~0.65MPaの動作圧が必要です。これが低下した場合は、製造ラインの配管系統にエア漏れが発生している可能性があると分かります。
配管系統の連続監視でコストを削減
ifmが提供する総合的な製品ラインナップから、DN8~DN250の配管サイズに対応し、コンプレッサから設備まで幅広く使われる圧縮空気の連続監視とITレベルへのデータ伝送が実現します。配管ラインに発生した圧力損失を正確に発見して迅速に解消できるため、プロセスのエア漏れにコンプレッサの圧力を上げて対応するよりも、長期的にコストが節約できて効率化を実現します。実際に動作圧を0.1MPa低下させた場合、最大7%の省エネ・低コスト化ができます。IIoTプラットフォームmoneoは、ifmが提供するソフトウェアツールで圧力差を自動計算し、コンプレッサのエアのムダ使いにつながる漏れやフィルタ詰まり等の異常をすぐ簡単に検出できます。
コンプレッサのエアの情報を有効活用。一目で分かる:運転待機時(1)と製造時(2)のエア使用量は、漏れ(3)があると急激に増加します。エア漏れが解消(4)すると、運転待機時のエア使用量がほとんどゼロになります。
圧縮空気流量センサSDはDN8~DN250の配管サイズに対応します。
エネルギー監視でコストを節約
デジタル化の検討の早い段階で、HARTINGはコンプレッサのエア監視に着目していました。
「製造業のコスト押上げの主要因となるエネルギー源の1つが、産業用圧縮空気です」と、Luca Manuel Steinmann氏は言います。「そのため、こまめに監視してシステム内のエア漏れを早く見つけ、効率的に使用することが重要です。圧縮空気は目に見えず、騒音の大きい製造現場でエア漏れを検出することは難しいため、”リーク検出プロジェクト”と名付けた取組みを始めました。」ムダ節約の余地が大きいことは、それからすぐに分かりました。「収集したデータから、圧縮空気の使用量が急増している1台の装置があることが判明しました。製造中だけでなく、待機運転中も圧縮空気の使用量が増えており、メンテナンスが必要であることは明らかでした。コンプレッサを点検すると、エア漏れが見つかりました。こうしてタイミング良くエア漏れを修理し、発見から修理までにかかるメンテナンスの時間を大幅に短縮できました」とThomas Kämper氏は言います。
これはまた、省エネにもつながります。その結果、コストとエネルギーの両方のムダを大幅に削減します。各装置からは、複数の測定値がITレベルへ伝送されます。
「さまざまな情報を集約して全体を把握でき、各装置の現在の稼働状態が正確に分かります」と、Thomas Kämper氏は言います。「カメラ画像による検査を組み合わせて製造品質を分析し、本当に必要な時にメンテナンスを実施して、高い製品品質が保証できます。データの分析で高度な見える化が実現し、対策までにかかる時間を短縮してピンポイントのメンテナンスが計画できます。こうしたすべてが、品質水準と生産性を高めて不良の廃棄のムダを減らします」
AIによる最適なメンテナンス計画
しかし、Thomas Kämper氏が率いるチームが取り組む最適化プロセスは、まだ始まったばかりです。現在、データソリューションによるエア漏れ修理のタイミングの最適化にデータアナリスト達が取り組んでいます。「エア漏れで設備を止めてメンテナンスを行うことは、費用対効果が悪くコスト損失やダウンタイムも伴います。そこにAIを活用すれば、将来の効率化につながると考えています」
HARTINGのエスペルカンプの工場にある装置はすべてネットワーク化され、データの完全な見える化を実現しています。
すぐに導入できるソリューション
HARTINGがデータ収集を導入した目的は、品質管理だけではありません。これは、エスペルカンプの工場から排出されるカーボンフットプリントの把握にも活用されています。「2017年に取得したISO 50001 エネルギーマネジメントシステム認証の要求事項の一環として、当社は製造工程のエネルギー使用量のデジタル測定と分析に取り組み始めました。こうした目的に叶う設定不要のすぐ導入できるソリューションが見つからなかったため、必要な知識や製品面をサポートするパートナーとしてifmを選びました。緊密に連携して素晴らしい協働が実現し、初めてのデジタル化プロジェクトが短期間で完成しました。」
CO2排出情報の幅広い活用への取組み
センサ情報と機械データの活用は、製造における持続可能な資源の有効利用という目標を大きく前進させたと、Thomas Kämper氏は説明します。「原材料加工から最終製品まですべてのステップを自社内で行っているため、最終製品それぞれについてエネルギーコストとカーボンフットプリントを正確に算出できます。今後はこうした情報をお客さまにも提供して、カーボンフットプリントの正確な算出に役立てていただきたいと考えています」
デジタル化による確かな付加価値
HARTINGでは、今後に向けて生産を効率化し品質管理を向上させる複数のプロジェクトが進められています。「圧縮空気の場合のように、他のエネルギーについても監視のしくみを整備するつもりです」と、Thomas Kämper氏は言います。「将来的には、クーラントや潤滑油の導電率測定など、製造品質に関わるさまざまな要素を一元的に分析することも計画しています」
生産効率を正確に分析
より多くの装置から常時データを収集して取得するデータ量を増せば、プロセス全体の進行状況を比較できます。「データに基づいて、製品別に生産効率の最も良い装置を客観的に判断できるようになります。それに従って生産計画が調整でき、さらに省エネが実現します」
HARTINGの各製品別にエネルギー消費量が分かります。このため、社内外に価値ある情報を提供できます。